no.122

建築設計を通した環境づくり
2020年8月  

濱崎 篤志(2007年修了 富永ゼミ) 


 卒業して14年近くが経ちましたが、これまでドイツ、中国、日本において都市計画や大規模開発、再開発など規模の大きな計画に携わる機会を得てきました。


この10年で自分の身を置いてきた環境を大きく変えてきました。さまざまな社会や地域に住み、そこで設計を経験してきたことと、年を追うごとに規模の大きな建築や計画に携わってきたことにより、私自身の中で設計を通して考えてきた関心が、ものづくりとしての設計だけでなく環境づくりとしての設計に意識が変わってきたように思います。


 建築設計をするとどうしても敷地という概念に縛られてしまいます。環境を考えるというのは、敷地だけでなく周りの外部空間や既存建物、道路や自然との関係性を考えながら、街の中でどうあるべきかということを提示していくことだと思います。そうした関心の変化は、規模が大きくなったことにより、考える範囲が広がったということだけでなく、これまでに共に働いた設計者、コンサルタントなどからの影響、中でもドイツで協働したランドスケープアーキテクトの視点に影響を受けてきたように思います。


 都市計画においては、初期から彼らと協働することになります。最初に建物のタイポロジー、ボリューム、交通、空地がどうあるべきかを議論します。中でも空地のあり方と性格付けについては時間を割いてスタディをします。それは既存の建物や広場、公園などの空地とどう関係性を作っていくか、ということについて、新たに計画する建物のボリュームと配置により壁面線を定め、空地を規定し、都市の構造や外部空間を、街の内側から考える視点です。


 確かにヨーロッパの街の骨格は、単独の建物でなく、日本の長屋のように建物が連なり、建物群が街区を形成し、外部空間を規定している事がよくわかります。建物に囲まれたセミパブリックな中庭や、昔から存在するであろう広場などの外部空間の豊さを、空間的、構造的にも連続させようとする積層的な考え方は、非常に学びや気づきを得る大きな経験でした。


 法規や文化が違うため、他の国でこうした設計手法を同じように用いることは困難ですが、その場所が持つ地形や自然、街並みといったことと、地域の文化・歴史を含めて設計向き合っていきたいと考えています。


 そうしたなかで、環境づくりのお手本としているのは、これまでに自分が訪れた街や旅先で体験した、素晴らしい街並みや風景と、そこで過ごす人々が活きいきと生活する場所が参考になると考えています。そうした場所の共通点は何かを考えると、その場所の独自性や歴史との関係性を保ちながらも、今そこに暮らす人たちが自由に生活をしている環境だと思います。そうした場所には、そこにしかない固有の環境が息づいているように思います。


 これらの社会に出てから考えてきたことは、修士の時に富永研究室で取り組んだ真鶴町の独特の地形やまちづくりへの参加と修士設計を通して考えていたことと繋がっていると感じています。

 

 

既存建物、計画建物と空地の構造を表現した図
 
建物が連続して広場を形成している(ミュンスター、ドイツ)
 
住んでいた部屋から見た中庭の風景(デュッセルドルフ、ドイツ)
複数の建物が連なり中庭を形成している
 
旧市街のマーケットの風景(ウィーン、オーストリア)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
[プロフィール]    
はまさき あつし    
濱崎 篤志 2007年修了 富永ゼミ

   
鹿児島県生まれ。法政大学大学院富永譲研究室を経て、現在久米設計。
ドイツで都市計画、キャンパス計画、中国で大規模な複合施設、オフィスなどを設計、日本に帰国後は大規模再開発、オフィスなどの設計を行っている。