no.185

唐津くんち

2025年11月  

磯目 知里(2019年修了 赤松ゼミ)



  

唐津くんちの季節がやってきた。
わたしは今設計事務所に勤めているが、仕事で縁があり、佐賀県唐津市で行われる唐津くんちに4年ほど前から訪れている。
毎年11月2・3・4日の3日間にわたって開催され、来場者数は60万人にもなる。
ユネスコ無形文化遺産にも登録されており、350年以上の歴史のある唐津神社のお祭りだ。

唐津市の14の町がもつ、曳山と呼ばれる個性豊かなお神輿が旧城下町を練り歩く。
木製の台車にはそれぞれの町ののれんが垂れ下がり、その上の木組みに和紙を何重にも重ね、漆で仕上げた一閑張と呼ばれる手法で作られたうわものが心柱に支えられた構成となっている。

曳山は神話や伝説、動物がモチーフであり、毎年推しの曳山が変わるほど、それぞれに魅力がある。
ちなみに去年の推しは水主町の鯱。
凹凸のある肌が光にあたってキラキラと輝いて見える様と、街中を泳ぐように動く姿が可愛らしい。

お祭り初日は唯一夜の曳山を見ることができるが、提灯や電灯で照らされた曳山は昼間とはまた違った表情を見せる。
一番人気と言われる鯛は夜になるとブラックな顔を見せてくれる。

6mほどある曳山が民家の立ち並ぶ入り組んだ路地の角を曲がった瞬間に現れる姿は迫力がある。
曳山が姿を現したとたん、日常の街中の要素が一変する。曳山が通る道が通路から舞台へ、商店街のアーケードはリンボーダンスのポールのような演出のための舞台装置へ、立ち並ぶ民家のバルコニーや屋根、歩道の縁石が客席へと変容する。
街と曳山のスケールがちぐはぐで、周りの建築が縮んだような不思議な感覚を覚える。

曳山は人が曳くことで、生を受けて動きだす。
その瞬間、人と曳山と街が一体となり、静かな城下町が大きな呼吸をはじめる。
曳山の軋む音、掛け声、太鼓の響きが重なり合い、街全体がひとつの生命体のように鼓動するのだ。

曳山が通りすぎたあとは、曳跡と撒かれた塩で真っ白な道路から祭りの賑わいの余韻が残る。
街はだんだんともとのスケールに戻り、静かで穏やかな日常に戻っていく。
唐津くんちは、そんな日常と非日常の移ろいを感じさせてくれる祭りであり、空間と人の関係を改めて考えさせてくれる体験でもある。

ぜひ一度、現地でその空気を、音を、熱を全身で感じてほしい。
曳山が動き出す瞬間のあの高揚感を味わえば、きっとあなたも唐津くんちの魅力に引き込まれるはず。

 

14台の曳山
 

推し山「鯱」
 
宵山の様子「酒呑童子と源頼光の兜」
 
民家と「鯛」
 
曳跡
 
[プロフィール]    
 
磯目 知里 2019年修了 赤松ゼミ

   
2019 法政大学大学院修士課程修了
2019 株式会社 久米設計 入社
2021 唐津市民会館の設計に携わり、
    唐津に通い始める