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自分の仕事に大きな影響を与える言葉というものがもしあるとしたら、私の場合は間違いなくこの言葉だと思います。建築家の宮脇檀から40年ほど前に伝授された言葉ですが、まさかそれから今に至るまで、私の仕事の指針として、そんなに長きに渡って、活き続ける言葉だとは思ってもいませんでした。 大学時代に陣内秀信先生の教えを受けて、都市形成史に目覚めた私は、大学院で戸建住宅地の歴史的形成を調査・研究していましたが、大学院の学費稼ぎで、宮脇檀建築研究室に出入りするようになりました。恥ずかしい話ですが、その時は宮脇檀が有名な建築家であることを知りませんでした。しかしその親しみやすい人柄や、わかりやすい言葉で生活感に根ざした建築や都市に対する考え方を述べる姿は、本格的なアーキテクト教育を旨とする当時の法政大学を卒業した私にとっては、とても新鮮に感じました。 そして大学院を卒業する時期になり、宮脇さんが「住宅地の歴史を研究するのは、とても面白いと思うが、つくるのも面白いぞ!」と私にかけた言葉が、卒業後の進路を決定しました。1970年代の終わり頃から、宮脇研究室には戸建住宅地の計画・設計という仕事が依頼されることが多くなり、今から考えるとそのような仕事に興味を持つ所員を探していたと思われます。 戸建住宅地というのは、歴史的に観ると、近世までの地域道路ネットワークを基に、時間をかけて徐々に拡充されてきたもの、計画的に面的な造成を行なって、道路などの基盤整備を行なったものに大まかに分かれますが、宮脇研究室で扱うのはもちろん後者のもので、公的開発、民間開発、区画整理などの事業形態があります。それらの事業で、良好な環境と景観の戸建住宅地をつくろうとすれば、事業企画から造成計画、建築計画、公園や道路など施設計画、建物の外構・造園計画、そして出来上がった後の環境管理計画というように、一貫した流れの中で、まちづくりを行わないとうまく目的を達成できません。 その中でも戸建住宅地の環境に、特に重要なのが、日々の生活に関わる家の前の道路などの屋外環境とその使われ方です。そこで宮脇さんが着目したのが「コモン」と「ボンエルフ」という考え方と計画手法です。「コモン」という概念は、最近は良く使われるようになり、あらためて説明の必要はないでしょうが、「ボンエルフ」に関しては多少説明が必要だと思います。これは元々オランダのデルフト市での交通法改正に伴う、道路の改善設計の言葉で、自動車の通行速度を低減して、近隣住民や通行人が快適に歩ける歩車共存の道路のことです。住宅地の道路計画では、歩車分離のラドバーンシステムが有名ですが、それは自動車通行量の多い道路での話で、住宅周りの屋外空間では、車利用の利便性と歩行者の快適性を両立させるボンエルフが住民の日々の生活に適合しているという、生活者目線の宮脇さんらしい考え方でした。
日本の戦後の多くの戸建住宅地の環境は、常套的で画一化された道路と宅地が作り出し、地域性もなく全国を覆い尽くしています。宮脇檀は一軒の住宅で建築学会賞を取っている住宅作家ですが、多くの住宅の設計を通して、全面道路や隣接家との関係などから、まちに大きな関心が生まれました。そこにはもちろん法政大学で10年間行なったデザインサーベイの実践で得た体験も大きく影響していると思います。そして既存の住宅地設計に異議申し立てを行い、多くの戸建住宅地の計画・設計を実践しました。そこに脈々と流れている計画手法が「コモン」と「ボンエルフ」でした。 |
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