no.187

建築の設計とコミュニケーション

2026年1月  

吉見 紀子(1994年修了 村松貞次郎ゼミ)


 
  

学生の頃、建築の設計とは、美しく使い勝手の良い建物を想像し、その図面を描くのが仕事だと思っていた。だからセンスを磨くために多くの建物を見て周り、建築家の設計を勉強していた(と言っておこう)。

ところが働き出してみるとその考えは大きく変わった。実際にセンスを活かせる時間は10%以下で、他の人とのコミュニケーションが必須であることを思い知らされた。私は現場監督からキャリアを始めた。なので職人さんに説明して動いてもらう必要があるのだが、まず聞いてもらえない。

私に対する「信頼」がないからだ。ある時、上司から「朝、職人には必ず一人一人に声をかけろ。おはようだけじゃなくて一言添えろ」と言われた。それから「おはよう!今日も元気だね!」「カミさんの機嫌、とってきた?笑」等ひたすら声をかけた。

すると1ヶ月もしないうちに「吉見ちゃん、ここどうする?」「よし、分かった!任せろ!」と言ってくれるようになった。

「信頼」は仕事が出来るようになったら付くものだと思っていたし、それは間違いないのだけど、コミュニケーションで作れるんだと知った最初の出来事だった。

私は事故現場にも遭遇したが、背景の一つとして「コミュニケーション不足」がある。コミュニケーションは人間関係だけではなく、現場をより安全にする効果もあると思っている。

私は独立してから約五年後、こうした経験を背景に、対人支援の仕事を始めることにした。 「最近の若者は何を考えているか分からない。ちょっとのことで会社を辞めてしまう」とか「中途で入ってきたベテランと話しづらい」といった声も聞く。これらも日々の小さなコミュニケーションで解決できると考えている。

最近「1on1」という対話する時間を取り入れる企業も増えてきたが、「そんな時間は取れない」という現場の声も多い。でも数秒のコミュニケーションが、信頼や安全、そして人の定着を支えるとしたらどうだろうか。 私は今も、建築業界に「コミュニケーション」を取り入れたいと考えている。


 

対人支援の講座を始めたころの私。ちょっと緊張気味です
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
[プロフィール]    
 
吉見 紀子 1994年修了 村松ゼミ

   
 1994年3月 修士課程修了 村松研究室
1994年4月 叶澤工務店入社 工事部に勤務
2002年3月 同社 設計部に勤務
2014年8月 同社を退社後「よしみ事務所」を立ち上げる。
2019年2月 対人支援活動を開始。現在に至る。