no.005 「木造建築がアツイ」
     2000年修了 渡辺研究室 佐藤 一成
   
 

 大学を卒業して10年経ち、最近になって木造建築が面白く感じてきた。
思えば、大学院を含めた6年間、法政大学で建築を学んできたはずなのに、きちんと授業を受けてなかったせいなのか、一級建築士の資格を持っていても、木造建築に関して自分がどれくらい理解できているのだろうと考えさせられてしまう。
 
 昨年、10月27日に行われた大型震動台「E-ディフェンス」の実験で、木造3階建ての耐震等級2の長期優良住宅(試験体1)が震度6強の揺れで倒壊したことが、大きなニュースとなった。長期優良住宅は、わずか20秒で倒壊してしまった。一方、従来の標準仕様の木造3階建て(試験体2)は、崩れ落ちることはなかった。それは、多くの人の予想を裏切る結果だった。

  ホールダウンで足元をしっかり固定した建物が崩壊し、片やホールダウンで固めなかった木造3階建て(試験体2)は、加振開始直後に柱脚が引き抜けたが、建物が崩れることはなかった。
自分の中で、どちらの方が、人の安全を守る建物として優れているか、未だ判断が難しい。

 かつて戦後日本の住宅政策によって、賃貸住宅から持家へ、小さな住宅から大きな住宅へ、マンションから一戸建て住宅へと誘導し、著しい経済成長を遂げた。しかし、そのスクラップアンドビルド体制が、幾つかの弊害を生じさせてしまった。スクラップ率50%。2戸の住宅を建てるために1戸を解体していった。石膏ボードの使用量の増加とともに産業廃棄物の排出量も増加していった。輸入建材の使用量の増加とともに国産木材の自給率は低迷し、日本の林業の維持は、困難になってしまった。このままではいけないと関係者たちが騒いでいるが、出口が見出せないでいる。

  以前『美味しんぼ』(第592話)という漫画のなかで、「日本の家屋で木材を、それも国産の木材を使う率は恐ろしく低い」というセリフがあり、理由として、「ひとつは、日本の建築学会が1959年に木造建築を否定したんです」との記載があった。「一級建築士の試験では木造についていっさい扱わないし、大学でも木造建築を教えない。」と続いた。耳が痛い。

 1959年の木造禁止令から35年後、偶然にも建築を志し、それから15年経って、最近やっと、木造建築が、経済や環境に大きく影響してきたことに気が付いた。

  そういう意味では、自分にとっての木造建築は、もはや古いものではなく、新しい可能性を秘めた物に感じられるのだ。

木造設計塾の様子
大工塾の会場
大工塾の実験の様子
 
[プロフィール]    
佐藤 一成
   2000年修了 渡辺研究室
    佐藤さんは、前回リレーエッセイの菰田さん設計の住宅の施工を担当されました。今年は、「木造設計塾」に半年間通われるとのこと。ぜひ、塾の様子など投稿いただきたいですね。