no.008 「設計すること 暮らすこと」
     1993年卒業 陣内研究室 清 麻里
   
 

 突然だが、我が家の家族構成は、夫婦と男の子二人の四人家族。長男11歳五年生。次男五歳の幼稚園年長。今住んでいる所には、長男が小学校に上がるのをめどに、家を建てて引っ越して来た。

 大学卒業後、意匠系設計事務所で何件かの住宅設計に係らせてもらった経験と、我が家の生活スタイル、又、長男の幼児期の行動をイメージして設計したつもりだった。実務段階では、ちょうど次男出産の前後と重なったため、現場監理がままならないので、やはり卒業生の友人に委託した。特に長男は暗い所を恐がり、親の気配を感じないと不安がったし、以前住んでいた所のトイレが奥まっていてなかなか行きたがらず、トイレトレーニングが進まなかったことなどから、明るく開放的で、どこに居ても気配を感じるようなワンルームをイメージし、間仕切りも殆ど無く、必要最低限に引き戸があると言った造りである。

 住み始めた当時、次男1歳2ヶ月。これが悲劇の始まりだった。ねんねの時期はあまり分からなかったが、歩き出すと、長男と次男の性格はまるで違っていた。長男は慎重で、無茶はしないタイプに対し、次男は好奇心の向くまま行動してしまうタイプ。流し台の取手を足がかりによじ登って、シンクの中で水遊びをしていたり、ソファーを伝ってアプライトピアノの一番上に登っていたり、障子を破く、壁に落書きは当然の事、挙げたらキリが無い。かくして、流し台の取手は全て撤去。お陰で三段の引き出しを開ける時は、一番下に手を掛けてから順番に開けなければならず、ソファーを伝ってピアノに登らないよう、ソファーの位置をずらす羽目に。家具のレイアウト計画も、あえなく机上の空論に...。明るく開放的なトイレに至っては、ウォシュレットのボタンを押しまくって、噴水の様に水が吹き出していたり、便器の中に入って水遊び。(水遊び好き!)しまいには、便器の中に石けんを放り込んで詰まらせてしまい、私ではどうにもならず、業者さんに来てもらう始末。修理費8000円也。トイレトレーニングをする気にもならず、引き戸を閉め切り、結局幼稚園に行く直前まで紙おむつのお世話になった。

 そんな次男も、もうすぐ小学生。越して来た時の長男と同じくらいになる。今では、恐くて一人ではトイレに行けない。明るく開放的なのに...。

 このように、設計することと暮らすことのギャップ、恐るべし、予想を遥かに超える幼児の行動を痛感しながら、慌ただしく日々を過ごしている。ふと、今まで係った住宅では、どんな暮らしが繰り広げられているのか頭によぎる。

 
 
 
[プロフィール]    
清 麻里
   1993年卒業 陣内研究室
   

(旧姓 恵美)
1993年3月 陣内研究室学部卒
1998年まで、安山宣之建築設計事務所に勤務
現在、11歳と5歳の男児と格闘中
ちなみに、このコラム執筆中、次男は水疱瘡になったとのこと。お大事に。