no.009 「建築と音楽と有機的なつながりの中で」
     1993年卒業 陣内研究室 長濱 武明
   
 

 2010年11月某日、成田空港を飛立ち8時間半ポートランド空港に到着。2005年より日米混合のアイリッシュミュージックバンドとして一緒に日本国内を演奏ツアーをしているメンバーが空港で迎えてくれた。今回の渡航目的はオレゴン州ヤハットという港町で開かれるケルティックミュージックフェスティバルへの出演。フェスティバルへの出演を打診されてから数年、やっと念願かないここに降り立つことができた。4泊6日、5ステージ+ワークショップ、いわゆる観光は一切なしという強行スケジュールのなかの出来事は、その一瞬一瞬が強烈に自分の中に刻まれた。

 フェスティバルから帰って、普段の生活に戻る。防音音響専門の設計事務所での勤務と月に数回のアイリッシュパブでの演奏。

  そもそもアイルランド/ケルト音楽にであったきっかけは、学生時代に卒業・修士論文のテーマとしたアイルランドの首都ダブリンでのフィールドワークの時であった。卒業後、学会の論文を書く目的 もあり、ダブリンの設計事務所でアルバイトをしながら、現地のフィールドワークを継続した。現地の文化や歴史にはいろいろと興味を持っていたのだが、アイリッシュパブで夜な夜な演奏者が集い自 然発生的に始まるセッションを聴きに行くうちに、アイルランド/ケルト音楽に興味を持った。なかでもバウロンという打楽器は大変シンプルな片面太鼓ながら、その複雑な演奏に大きな衝撃を受け、 すぐに地元の楽器店で、そのバウロンを購入し、教室を探して習い始めた。

  帰国後、就職氷河期の時代に雇ってもらったのが、防音音響専門の設計事務所だった。特に専門的に室内音響や音響工学を学んだ経験もなかったのだが、面接ではアイルランドで出会った音楽や楽器の 話を熱く語った記憶がある。仕事を始めてから建築音響の教科書を改めて読み直したりもしたが、実務で学んだことのほうが多い。防音音響工事は専門性の高い分野だけに、営業、基本計画、積算見積 、音響設計、現場管理と一貫して責任施工という形で進めることがほとんど。それゆえにクライアントとの関係性が深くなることが多くなった。

  実際に工事の打合せ以外に、クライアントと一緒にセッションをしたり、音楽談義に講じたり、レコーディングの仕事やミュージシャンの手配の依頼を受けたりと、まさに公私を超えたお付き合いをさせていただいている。

  いま、仕事で携わる建築も音楽活動も有機的につながりはじめ、自分の中で少しずつ化学反応し始めている。

 
 
 
[プロフィール]    
長濱 武明
   1996年修了 陣内研究室
   

卒業後 Derek Tynan Architectのワーキングスタディを経て現在(株)アコースティックエンジニアリング勤務。
http://www.acoustic-eng.co.jp
アイルランド音楽のコンサートの企画等を行う ロイシンダフプロダクション代表
日本では数少ないアイルランドの打楽器バウロンの専門プレーヤーとして、都内を中心に活動中。
http://www.roisindubh.jp