趣味といえるほどではないけれど、旅をするのが好きである。
学生時代に、宮脇先生のゼミでデザインサーヴェイをやっていたこともあって、古い歴史のある町を訪ね歩くような旅が楽しい。
そんな旅では、色々な人とのふれあいが楽しいし、不思議なことに出会うこともある。
だいぶ前の話しだが、ポルトガルのナザレを訪ねてみたときの話。
前日にポルトに泊まって、その日は夕方にナザレの最寄の駅に列車が着いた。ここから、ナザレまではさらにバスで20分ほど行くのだが、バス停に行くと、そんなに遅い時刻でもないのに、最終バスが出てしまったと言う。
小さな町で、数少ないホテルは全て満員。こんなところで野宿はしたくないし。実は、数日前に、スペインとの国境の町で、同じような状況に陥って、やむなく駅のベンチで野宿したら、風邪を引いてしまい、まだ直っていなかった。
かみさんと二人で途方にくれていると、目の前に小さな車がすうっと停まって、中から老夫婦が話しかけてきた。「どうしたの」。わけを話すと、「ナザレまで送ってあげるから乗りなさい」と言う。我々は、その車に乗せてもらって、無事ナザレに到着。こういうときの見知らぬ人の親切は、本当に嬉しいものです。
ナザレは、漁村なのだけれど、今では中流以下のヨーロッパ人が夏のバカンスを過ごすリゾート地になっている。(金持ちは、モナコやカンヌあたりへ行くらしい。)
白い壁に赤い瓦の家々が海岸沿い並んでいる様がとても美しい。海へ向かう何本もの細い道と、それをつなぐ道が、アミダクジのよう走って、独特な町並みを作っている。
町の名物(と僕が思っている)は、その海岸沿いの道端で、七輪で焼いている鰯。これを一皿もらって、向かいのバーで、大きな樽から注いでもらった白ワインを飲みながら食べた味が、今でも忘れられない。
ナザレに3日ほどいた後、次の目的地リスボンへ向かうために、件の駅に夕方に戻ってきた。
ところが、またもや、最終列車が出た後で、ホテルも満室。何しろ最終の時間が早いのだ。
又やってしまった、と思っている目の前に、見たことのある車がすうっと停まって、「どうしたの」と、この間の老夫婦。これまた同じように説明すると、「隣のコインブラは大きな町だから、ホテルもいっぱいあって、泊まれると思うわよ。送ってあげるから乗りなさい」。またもや、厚意に甘えて送ってもらうことにした。
おかげで、ホテルを見つけることも出来、予定外のコインブラ見物まで出来た。
旅に偶然の出来事はつき物かも知れないけれど、不思議なこともあるものだ、と思いながら、後から考えると、あの老夫婦は、困っている旅人を助けるのが趣味で、一日中駅前を車で巡回しているのかもしれない。そんなことは無いか。
もうひとつ、旅の思い出で不思議なことは、後で考えると、僕はあの時何語で話していたのだろう。もちろんポルトガル語は全くわからないし、英語だって相当に怪しい。
でも、思いでの中では、言葉の通じないもの同士が、平気で会話をしているのが不思議だ。
|