no.013

「『個』を『ひとつ』にする力」
     1997年修了 陣内ゼミ 岡本 拓也
   
 

 年始に行われたアジアカップカタール2011では、日本が史上最多となる4度目の優勝を飾りアジア王者に輝いた。決勝戦もさることながらカタール戦では、退場者を出し一人ビハインドとなりながらも、複数の「個」がより一層結束し、「ひとつ」になった日本代表チームの力に魅せられ、いい年をしてテレビにかじりつき応援した。さらに優勝後、選手らが「このままじゃダメだ。戦術やチームワークも必要だが、個人の能力をさらに上げて世界を圧倒したい。」と語ったエピソードにも感動したものだった。

 それから2カ月経たないうちに、東日本大震災が日本を襲った。
 いまこそ国が一丸となって復興・再生すべきだ、と皆が思ったに違いない。ところが、実態は同じ政党内で首相の辞任を迫るなどのニュースが流れるような有様である。正直、仲間同士で足を引っ張り合っている場合じゃないだろ、と思う。日本代表チームは、ザッケローニ監督の存在があったかもしれないが、それ以上に、「個」の力を機能させるための手段として、リスクマネジメントなどゲームを構築する管理意識や能力を選手一人ひとりが体得していたからこそ、チームがまとまったのではないだろうか。

  話は変わるが、私は最近、都内や地方都市における商店街の“元気”づくりに携わっている。
 商店街の“元気”づくりにおいて、お店自体の魅力を高めなければならないのは当然であり、むしろ、世の中が驚嘆するほどに「個」の能力を高めていく気概をお店自身にもって頂かなければならない。その実態としては、小粒ながら人気店が軒を並べる商店街もあれば、空き店舗が点在しチームに欠員が出てしまっている商店街もある。後者における私の第一の仕事は、チームに能力の高い新メンバーを加え、欠員を補填することだった。
  一方、商店街「全体」の実態としては、関係者らが「街は運命共同体」と考えてくれている商店街もあるが、疲弊が進みすぎ「誰かに何とかしてもらいたい」、「自分のことで精一杯」とまとまりを欠く商店街もある。
 しかし、後者の商店街に芽がない訳ではない。地元のリーダーが孤軍奮闘を重ね、まちづくり会社や行政がそれを温かくバックアップし、地権者たちの関心も高まりつつある。商店街の“元気”づくりの担い手たちが徐々に一定の方向を見出し始めているのだ。

 現在の私のフィールドとなっている商店街という単位ですら、現状を冷静に見直し、かつての繁栄に溺れず一丸となって、地域づくりの担い手たちがまとまりつつある。「個」の向上と「全体」の向上の好循環による成果を目の当たりにする日は、さほど遠くないような気がする。
国家という単位でもそれができない訳がない。ステークホルダーの多様性において、サッカーチームや商店街の比でないことは明らかであるが、“元気”づくりの基本原理は同じではないか。
  今すぐに「個」の力を「ひとつ」にまとめ、被災のダメージによるビハインドを回復させ、国際競争力を高める手段も講じながら、次代へその力を継承していく必要があるのではないか、と考える今日この頃なのだった。

 

▲「街は運命共同体」と考える都内某商店街における取組み(まちづくりのルール=街並み誘導型地区計画の導入)
▲“元気”づくりの緒に就いた地方都市某商店街における取組み(空き店舗対策・街並み形成による将来イメージ図)
 
 
[プロフィール]    
岡本 拓也
   1997年修了 陣内研究室
   

現在(株)UG都市建築に勤務
最近は商店街等の活性化や複合市街地の開発を始めとする都市デザインの実践に取り組んでいる。