no.025 「ドイツへ」
     2007年修了 富永ゼミ 金田 真聡
   
 

ドイツへ
 4月からドイツベルリンに引越した。ベルリンの設計事務所で働くためだ。もともと海外で設計をしたいという夢は学生時代からあり、大学院を卒業後5年間働いた日本の会社を辞めドイツに来た。

始まり
 きっかけは、前回のリレーエッセイをー担当されていた小林さんの言葉だった。とりあえず一年後に海外の設計事務所に行くことを決意し、ニューヨークで働いた経験を持つ小林さんに会いに行った。そこで、「海外に行きたいのは良くわかったけど、そこで何をやるかをしっかり決めないと。たとえそれが後で変わっても全然大丈夫。例えばドイツで環境建築の勉強するとかさ!」この時始めてドイツという国が候補として浮上し、翌日からドイツに関する本や記事を読み漁った。元来猪突猛進タイプの私は、調べれば調べるほどドイツの魅力に取り憑かれ2ヶ月後には目的地をベルリンに 絞っていた。とりわけ「環境」というキーワードの意味が自分が建築に対して大切に思うことと一致した事が大きかった。私にとって環境配慮というのは、最新の省エネ技術やエコ商品を使う事だけではなく、古いものを長く使うことだった。ドイツにおける古いものを大切に使う文化と日本に負けず劣らずの技術の融合に魅力を感じた。

学生時代からの思い
 今思えば、修士設計で行った尾道市庁舎の設計も個性を失って行く地方都市をテーマに行ったものだった。短期的な視点での経済効率を上げる画一的な開発手法と建築群が、反対に長期的な効率を落とす事に問題を感じていた。そして最も大きな問題は、そのような環境では建築や都市を文化の要素、記憶の一部であるという考えをもてなくなっていってしまうことだと考えている。ヨーロッパでは、歴史は単に学校や本で学ぶ事では無く今も目の前に存在し自分がその延長線上にいるのだと日々感じる。今、人々が魅力を感じる街は京都や奈良をはじめ歴史や個性の残っている街だ。また外国からの観光客が魅力に感じるのは、まさにそういった場所や文化である。その事を考える中で、陣内秀信先生から聞いた「一周遅れのトップランナー」という言葉を思い出した。モータリゼーションに取り残されたベネチアが、中心市街地に車を入れないという発想に世界が変化したことで、トップランナーになったという状況を評して仰った言葉だ。

設計を通して感じること
 ドイツでは、解体して新しく作った方が経済的には合理的だと思える建物も利用することが多い。ベルリンでもアルトバウ(古い建物の意)と呼ばれる古いアパートの方が人気がある。また現在私が働く事務所も100年以上経過した建物でお世辞にも外観は綺麗とは言い難いが、内部は非常に美しくリノベーションされ窓は全てペアガラスのサッシュに取り替えられている。そして私が携わるベルリン中心部の集合住宅の計画も、当初は全て新築の予定だったが、デベロッパー側からの強い要望で敷地内の既存の建物に接続する計画に変更された。単に木の文化、石の文化の問題で片付けるのではなく、実行しようとする意欲の高さに大きな差があると感じる。ドイツでは長期使用の考えと環境技術開発が相乗効果を生んでいるのだろう。

世界を広げる
 一方技術開発のスピードや普及率ではやはり日本の方が進んでいると自信をもって言える。ドイツ人は自分の目で見て、使って実感しないとなかなか新しい物に乗り換えないという。トイレの衛生機器で、タンクレスや節水型等は見たこともない。またLEDもほとんど普及していない。但し、新しいものを製造するための資源やエネルギー、取り替え時に発生する廃棄物などをよく考える必要があると思う。ゴミの分別に関しては日本の方が断然きめ細やかだ。一方ドイツでは無駄な包装を極力減らす事に重点がおかれているようだ。冷凍ピラフの箱を開けると箱にそのまま凍ったピラフが入っていた時はさすがにおかしかったが。現在の私はこういった日独両方の特徴を理解し、双方の架け橋として働けるようになりたいという夢を見つけた。そしてこの過程の中で、何度も何度も相談に乗ってくれた友人達、励まし送り出してくれた先輩や後輩、たくさんの人達に支えられている事を感じられた事が、何よりも大きな財産となった。

 現在住むベルリンのアルトバウ
 
 
[プロフィール]    
金田 真聡
   2007年修了 富永ゼミ
   

2007年 富永研究室卒
    修士設計 大江宏賞受賞
2007年 - 2012年 安藤建設株式会社
現在 plajer & franz studio (Berlin)