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出張先のホテルである。 3年ほど前から、文庫本サイズのノートをスケッチ帳として使っている。大体一年に一冊のペースで書いている。出不精なので、年間一冊、何でも良いから建物を見に行ってスケッチを描こうと目標を立てたのが苦難の始まりである。 それでも少しは、真面目に描いているページもあった(探すのに苦労した)。 「見る」と言えば大学生のころ、設計製図を教えて頂いた竹内裕二先生に、当時建築学科のあった東小金井駅前の小さな焼鳥屋に連れて行ってもらったことがあった(その店は間口が狭く、両側の壁が平行でないためパースが効いていて、プランがヴェネツィアのサンマルコ広場に似ているというので、みんなで面白がって「サンマルコ」と呼んでいた店である)。そこで「この店の内観を見て覚えて、帰ってからパースを描いて持ってきなさい」と無茶な課題を頂いた。必死に見て覚えて、何とか描いて翌週持っていったら、なかなか上手いと褒めて下さった。それで俄然やる気が出たのがスケッチを描き始めたきっかけかもしれない。とても大切なことを教えて頂いた。 「場所のたたずまいに感銘を受けた時、それを記述する」、「建築はいつでも、どこにいても研究できる」とは私の師匠である富永讓先生が、当時の大学のシラバスに書いていた言葉だったと思う。ほんのわずかでも実践しようとしているのだが、寅さんではないけれど「奮闘努力の甲斐もなく、今日も涙の日が落ち」た後は、結局ひとり焼鳥屋で煮込を突ついているのである。 |
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