no.033

『法政大学55/58年館 見学会』に参加して改めて発見したこと −ファサードの秘密
     1983年卒業 大江ゼミ 上村 美智夫
   
 

 法政の顔ともいえる55・58年館は、以前何度か訪れた事はあり、知ってはいた。建築学科を出て、設計の世界に入り30年近くになるが、やはりあの姿は忘れることはなかったし、いや、この道で仕事をすればするほど、気になる存在になっていた。そんな時、この校舎の見学会があることを耳にした。思えば何度か訪れた事はあったが、それは何かの用が有ってのことで、目的が済めば、多少付近をウロウロはしても、教室等の中や屋上までは、少々の遠慮もあり、やはり全体は見てはいないだろうと思われた。ならば、この機会に改めてじっくり見られるのであればと思い参加することにした。

 まずは、外堀の対岸からの雄姿を再確認したいと思った。そうだ、河原さんの学生会館は既に建て替えられたと聞いていたし、他大学のような高層棟も加わったと耳にしている。それら全体は、いったいどの様に見えるのかが気になったのだ。
 右端に高層棟が見え、左端にはガラスの箱の塊のような今時の建物が建ち、それらを水平につなぐかのように、あの白黒パターン模様の立面が眼に入ってきた。3つの建物の全体の姿も、「まあ、けして悪くないか」と思ったし、両側の2つに比べると、55・58年館はとても繊細に見え、時間を掛けて丁寧にデザインされているように思われた。
 久しぶりの対面であった。これはいつも思うことであるが、あのファサードはとても個性的であり、そしてモダン(近代的)な建物ではあろうが、この白黒のパターン模様と細めの障子の桟のようなデザインは、どことなく和の風情もあり、清廉、静寂、落ち着きのようなものを連想させ、「学びや」としてふさわしい姿であろうと思った。

  この様に自由で美しいファサードの秘密のひとつは、外壁側の丸柱の外側に窓ガラス面を離して取り付ける、カーテンウォールの手法が成功しているためであろう。こうすることで、構造体である無骨なコンクリートの柱が外壁のガラス面に現れてこない。このことが外壁カーテンウォールのデザインに自由を与え、軽やかで魅力ある立面を可能にしている。更に注目すべきは、上部の白黒パターン模様のガラス面の後ろ(建物内部)に隠されていた、コンクリートの丸柱が、下層の1、2階では、今度は外部に姿を現し、上部の軽やかなカーテンウォールの壁面を力強く支えるという、コンクリートが持つその本来の表情を遺憾なく発揮するのである。このひとつのモチーフで、異なる2つの表情を作り出し、それらが心地よい対比(バランス)をなし、そして両者が共にお互いを引き立てあっているのである。

  私は、設計が上手いとか、建物が良いというのは、この様なことの積み重ねであろうと思った。つまり時間を掛けよく考えられているのである。ものの構成が道理にかなっていて、無理が無く、流れるように自然なのである。見るたびに様々な発見があり、設計への真摯な姿勢についても語っているかのようであった。

  見学会は正面1階ピロティ部に集合し、主には教室、屋上、学生ホール、南側庭園へと案内された。その過程でも感じるところが多々ありましたので、機会があれば次回としたいと思います。
最後に、建物内部もそうでしたし、外観でそれを強く感じましたが、メンテナンスがとてもよくされている事に驚きました。鉄部の錆や白黒パターン模様部分の汚れ等は、全くと言ってよいほど見られませんでした。大変丁寧に大切に管理されていたことを知りました。

 

 PAO建築設計
 http://www2.gol.com/users/paoarchi/

 

 
[プロフィール]    
上村 美智夫
   1983年卒業 大江ゼミ
   

1983年卒業(大江ゼミ)。GA建築設計社、大江宏建築事務所を経て独立。
独立直後、 シルクロードに沿ってアジア・中近東・ヨーロッパ・アフリカへ
約8ヶ月間建築探訪旅行。
現在:PAO建築設計 代表

【コメント】
「このリレーエッセイを見て、見学会等の参加者が一人でも増え、55/58ファンの増加につながればと思っています。」というコメントとともに投稿いただきました。上村さんありがとうございます。