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表現者と演技空間と観客。この3つがあれば、それは演劇として成立します。演技空間は表現を妨げない空間が最低畳半畳あれば成立するとよく言われています。 能楽の演技空間は、シンプルだとよく言われます。しかし、演技空間の構成要素は客席面との段差、柱、檜床、屋根、主に老松が描かれた背後の板壁と、シンプルという割には多めです。段差・柱・床・屋根・板壁。 何故、こんなに構成要素が必要だったのでしょうか。 段差の存在理由は容易に想像できます。段差があれば混雑でも、後ろの観客迄演技が見えます。また、面や楽器・衣装・小道具などの貴重品や知的財産を観客から守る境界となる目的もありそうです。 柱と床は、シテ(主役)が視界の限られる面をかけ、舞の時に足拍子を踏む能楽の演技の性質上、必要なものだと、稽古の際に師匠から教わりました。 では、屋根と背後の板壁の存在理由は何でしょう。 能楽が勢力を持った室町時代初期頃から主公演場とされてきた春日大社若宮祭「後宴の能」及び興福寺「薪猿楽」の資料では、屋根も板壁も無く、安土桃山時代には、屋根は出てきますが板壁はあるものと無いものとあり、つまり屋根も板壁も後から出てきた物です。 師匠からは、板壁と屋根は音響効果から発達したと聞いていますし、実際、現在の能楽堂でもその効果は実感できます。しかし、それだけでしょうか。 江戸時代が終わるまで、能楽は主に屋外で昼やる場合と夜やる場合があったことを考えると、現在同じように屋外公演で昼も夜も公演する野外ロックフェスがヒントになりそうです。バンドが公演する空間は段差があり、なぜか仮設なのに屋根のようなものと黒またはロゴの背景を背負っています。音響効果からすれば、背景も屋根も全く意味をもたない素材・作り方なのに、わざわざ組み上げています。音響的に意味がないとすれば、それは視覚的な意図、つまり額縁やスポットライトでしょう。特に必要は無いがあると観客が舞台に集中できる。そんな面からも背景と屋根はあるのではないでしょうか。
参考文献:現代能楽講義(天野文雄著・大阪大学出版会) |
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