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昨年まで、京急緑地開発Mという会社で、働いていました。個人邸・マンション・デパート・駅、あらゆる場所に、緑のある風景を提案する仕事でした。最初に3D CADで、敷地や道路、建物等を描き、更に樹木や花壇、門柱と言ったものを描き加え、緑あふれる風景画を完成させていきました。植栽は四季を通じて変化するので、春や秋の提案画像も必要とされたこともありました。また、ライトアップされた樹木の影が、建物に映し出される夜の風景も描きました。 しかし、植栽計画は、生き物相手のデザインなので、植物の専門知識も必要とされました。潮風への耐性や日照条件、害虫の問題や植物同士の相性等は、専門書で学びました。しかし、専門書の中では、生育可能な植物でも、枯れてしまうことがあるので、計画地の近所を歩き回り、元気に育っている植物を調べたりもしました。 また、出来るだけ多くの視点で、植栽を提案したいと思っていました。例えばナンテンは、「難を転じる」という言葉から、鬼門に植えられていました。また、ナンテンの葉に薬効成分・殺菌作用があることから、昔は家の外にある御手洗いの近くに、植えられていることも多かったようです。そんなナンテンですが、アメリカ西海岸の住宅街で、玄関前に沢山植えられていて、驚きました。造型的には、常緑樹であるにもかかわらず、葉は柔らかく、風になびく姿は、涼しげです。葉の色も、濃い緑から淡い緑、紅色と単調ではありません。冬には赤い実をつけ、庭に彩を与えてくれます。植物そのものを見ないで、名前やいわれに惑わされてしまうこともありますが、先入観なしに観察することも必要だと、思っていました。時には、ヘルマン=ヘッセ、梨木香歩さん、小川洋子さんの物語の中で表現される、魅力的な植物の描写を参考にしたこともありました。 会社の近くを散歩していて、大変美しい桜の木に出会いました。出会ったのは、冬でした。光沢のある樹皮から、桜だと推測できました。毛細血管のように繊細な枝があまりにも魅力的だったので、寒いのも忘れ、いつまでもいつまでも眺めていました。それから時々、寄り道しては、カメラに収めました。そしてある時、枝ぶりの美しさを支えているのは、背景にある常緑樹であることに気が付きました。造園でも常緑の生け垣を背景に、落葉の花木を植える手法があります。 自然の織り成す世界には、興味が尽きるということはありません。会社は辞めましたが、これからも四季折々の植物たちと対話し、緑のある風景を描き続けていきたいと思っています。 |
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