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「暮らすようにパリを歩く」

   

2000年修了 陣内ゼミ 坂田菜穂子

   
 

 パッサージュやコルビュジエ建築、美術館、そんなパリの建築めぐりをした人は多いのではないでしょうか。天気のいいこの時期は、街歩きにぴったりの季節です。移動するにも、地下鉄ではなくパリの街中を駆け巡るバスを使えば、街の変化や道行く人を眺められ、楽しいものです。

 16区のラ・ロッシュ/ジャンヌレ邸から程近いところにあるrue Mallet-Stevensは、好きな通りの一つです。その名からもわかるように、建築家ロベール・マレ・ステヴァンスが1920年代に袋小路すべての建築をデザインしたプロジェクトです。その中でも10番地にある双子の彫刻家ジョエルとジャン・マルテルの住宅兼アトリエは、必見です。螺旋階段のある円筒のヴォリュームを中心として、いくつものヴォリュームがセットバックし、建築自体がまさに彫刻のようです。円筒のヴォリュームにはアールデコのガラス作家、ルイ・バリエのステンドグラスがあり、内側から見たい衝動にかられます。ジャン・プルーヴェによる入り口の鉄の門、室内にはシャルロット・ペリアンやピエール・ジャンヌレの家具がオリジナルの状態で残っているそうです。またファサード右手には、マルテル兄弟による幾何学的な噴水もあり、通りにリズムを与えています。この時代の名だたるデザイナーたちが手がけたこの建築は、外観だけ見ていても飽きことがありませんが、やはり中に入りたくなります。袋小路沿いの他の建築も、スタイルは同じですがそれぞれに面白みがあります。そして実はこの物件、今売りに出ているのです。価格は2,400,000ユーロ。まだ買い手がついていないようなので、内覧を兼ねて訪問できるかもしれません!到底私には買えませんが、ご興味のある方は是非!

 また季節のいい時期に訪れたいのが、パリ近郊にあるフランス唯一のアアルト建築、ルイ・カレ邸。ランドスケープを生かした建築と、建築だけでなく家具やテキスタイルなど、ディテールを含めすべてデザインする北欧のデザイナーならではのこの住宅は何度訪れても飽きることがありません。ルイ・カレ邸については、前出の中橋恵さんのブログに近日中に掲載予定です。

街歩きに疲れたら、オステルリッツ駅そばのLes Docks-Cité de la mode et du designのデッキで休憩するのがおすすめです。セーヌ川沿いにこれだけ大きなデッキがあるのはここだけですし、何といってもとても気持ちがいいです。水辺の魅力が堪能できますし、ファッションやデザインの展覧会やイベントも常時やっているので、ここだけで休日の午後をゆっくり過ごすこともできます。知る人ぞ知る場所なので、人も多くなくゆっくりできます。

子ども連れなら、つい先日リニューアルオープンした、ヴァンセンヌの森の動物園がよさそうです。建築はベルナール・チュミによるもの。ですが入場料が22ユーロと高いため、そればかり話題になっています。チュミ自身がプロジェクトについて語ったビデオを先日見ましたが、もとの動物園の要素を生かし、動物と人間のエリアの分け方、その回遊性と展示方法はとても興味深いです。まだ行っていないので、今行きたいところの一つです。

 

rue Mallet-Stevens入り口

 
ジョエルとジャン・マルテルの住宅兼アトリエ
 
Les Docksのデッキ 
 
   
 
[プロフィール]    

坂田菜穂子

   2000年修了 陣内研究室
   

リビングデザインセンターOZONEにて、デザイン・建築を中心とした展覧会・セミナー・シンポジウム、建築家との子ども向けの建築ワークショップの企画・運営に携わり、その後渡仏。パリ近郊在住。子育てをしながら、ファッションや建築、デザインの現地通訳・アテンド、デザインリサーチなどを行う。

同研究室出身でイタリア・ナポリ在住の中橋恵さんのブログhttp://blog.napolistyle.jp.net
に、フランスでのデザイン・建築に関する記事を寄稿しています。
現在、子ども向けのインテリアデザインやワークショップ、ケータリングなどのプロジェクトが進行中。