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私が最も尊敬し敬愛する恩師、それが東京大学生産技術研究所名誉教授の故半谷裕彦(Hangai Yasuhiko)先生です。 国際シェル空間構造学会(IASS)が半谷先生の業績を記念して創設した、「半谷賞」 [Hangai Prize]
http://hangai_prize.iis.u-tokyo.ac.jp/whatis.html
1975年大学3年の時、シラバスで「建築数学」「建築数学演習」という一風変わった講座名に惹かれ受講したのが半谷先生との出逢いでした。当時法政工学部は東小金井にあり、先生は31歳の気鋭の研究者で、当時は六本木にあった東京大学生産技術研究所「坪井・川股研究室」の助手をされていました。
[六本木時代の東大生研]
http://www.city.minato.tokyo.jp/azabuchikusei/mirai/01-22.html
当時法政構造系の、青木繁先生、川口衞先生、故高橋敏男先生は、大空間構造・曲面構造の大家であった故坪井善勝名誉教授の一門で、まさに小金井工学部は「構造の法政」の面目躍如の時代でした。 半谷先生は、後年その名門「坪井研究室」を継ぎ、計算力学、特にシェル構造やドーム建築のような曲面構造、大空間構造の分野で、「形態解析」という新しい分野を切り開きます。 [半谷先生のメモリアルHP]
http://space.iis.u-tokyo.ac.jp/hangai/hangaihome.htm
「建築数学」「建築数学演習」の受講者は十数名で、ゼミナールのような密度の濃い授業でオイラー座屈に始まり、構造物の固有値問題、変分原理、エネルギー式を変分法で扱い構造物の基礎微分方程式を導き出すなど、大学3年生には程度が高い内容を魔法のように鮮やかな名講義で指導していただいたのを思い出します。演習では、毎回私達の書いた計算を独特の温かい朱書きで添削してくださいました。 そして私と、佐世保出身の松尾秀文君(クローネ建築設計事務所・法政理系同窓会体育連合会長)、浦和出身のシティボーイ佐藤晃君(構造士事務所自営)は、卒論の指導を半谷先生にお願いし大学3年の後期から、東京大学生産技術研究所「坪井研究室」に通い始める事になりました。 半谷ゼミの一期先輩には櫻井宏さん(国立仙台高等専門学校教授)、井上晴久さん(清水建設を経てシンガポールで建設会社社長)が、生研3階の「光弾性実験室」で待ち構えていらっしゃり、微分方程式の自主ゼミナールが始まりました。 また坪井研究室の博士・修士課程の先輩には、後年名古屋大学の教授になられた助手の大森博司さん、現法政大学教授の吉田長行さんらがおられ、また韓国の成均館大学名誉教授権宅鎮先生が博士論文を執筆の際には、論文の図表のお手伝いをさせていただくなど、実に刺激的な環境で勉強をさせていただいた思い出があります。 [権宅鎮先生の業績]
http://www.makukouzou.or.jp/pages.020/pdf/gijyutsu-news.No.3.pdf
その半谷先生は1998年の8月9日、56歳の若さで急逝されました。 「半谷研」の後継者、川口健一助教授(当時)、ほか、半谷研の高弟、名古屋大学/大森博司先生、法政大学/吉田長行先生など半谷一門の学生を伴って、長野県飯網高原で恒例となった「夏ゼミ」で指導されている途中、体調を崩され懸命の手当の甲斐もなく他界されました。当時私は46歳、勤務先で半谷先生の訃報に接した時は言葉を失いました。白血病だったのを周囲に悟らせず、研究活動、後進育成、学会活動に精力的にこなしておられたことを知ったのは翌年の1999年、半谷先生の追悼文集「星影」が上梓された時です。 追悼文集の表題「星影」は、編集後記によると奥様からの次の e-mail で決まったそうです。 「『星影』いかがでしょうか。「星影のワルツ」は研究室歌でしたし、(告別式の)最後の別れの折に、皆様に歌っていただいた歌です。主人は星の陰にかくれてしまいました。 でも、星の陰から、見守ってくれるような気がします」 七回忌に当たる2005年7月に、半谷先生を偲ぶと伴に、「半谷裕彦記念 形態解析セミナー」が本郷の山上会館で開催されました。懇親会で、参加者全員で、肩を組んで歌った、研究室歌「星影のワルツ」が忘れられません。千昌夫「星影のワルツ」聞いて下さい♪→ http://youtu.be/SDXM58ZzXNQ 「星影」を読む時、先生がいかに多くの世界中の研究者、師弟に敬愛されていたかがわかります。 そして落ち込んだ時、困難に出逢った時、先生を悼んで文章を寄せた、世界中の建築構造学の先達の思いが胸に迫ってきます。時が経ち、私達は半谷先生の享年を遙かに追い越してしまいました。 半谷先生の一番弟子、名古屋大学の大森先生は今年3月に定年退官されました。 [最終講義]
http://ocw.nagoya-u.jp/index.php?lang=ja&mode=c&id=417&page_type=materials
川口衞先生のご長男、川口健一先生は「坪井〜半谷研」の伝統を継いでいらっしゃいます。 [東大生研川口研究室HP]
http://yuzu.iis.u-tokyo.ac.jp/
法政半谷ゼミ10名は、お墓参りと奥様を囲んでの「偲ぶ会」を続けて、十余年になります。 今もなお、半谷先生のあの優しい笑顔を思い出すと、奥様がおっしゃっていたように、半谷先生は星になったのだと思います。毎年8月9日は、ゼミ生にとって永遠に「星影忌」なのです。
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