no.072

小さい建築とスローなコミュニティ

   

1995年修了 村松研究室 坂野由典


 

三鷹にある野川公園はとても広く、気持ちの良い公園だ。その公園に向かい合う形で小さな建築を設計する機会があった。美大出身の若いクライアント夫婦は1階をカフェ、ギャラリー、アトリエとし、2階は最小限の居住スペースにしたいという。そこで提案したのが、仕切りのない空間だった。カフェ、ギャラリー、アトリエが建物の中心にある筒状の壁の周りに、それぞれがつながるように配置されている。各スペースから他のスペースの存在を感じられ、そのことがこの空間の心地よい刺激になっている。カフェは日曜日だけ営業しており、公園から訪れる人たちに最高に美味しいコーヒーとケークサレ、そして展示されたアートとともに過ごす、ゆったりとした時間を提供している。このカフェは「Oeufウフ」(フランス語でたまご)と名づけられた。名前の由来は建物の中心にある筒状の壁がたまごのように白いからだ。


もう一つ建物を紹介したい。
世田谷の住宅街に計画された小さい建築だ。ツボミハウスと名づけられたその建物は、建坪が7坪ほどしかない中に住居と店舗が同居している。それぞれの空間が窮屈にならないように仕切りは殆どなくした。トイレや浴室さえもカーテンでしか仕切っていない。結果として、住居とお店(クッキー屋)が適度に交流しあう不思議な楽しさがある場所となった。そして、いつしか交流の場所は建物の外にまで広がり、限られたスペースにもかかわらず、定期的にマルシェという形で様々な人たちが持ち寄ったもので、小さな市場が開かれるまでになった。


電話はもはや離れた人と話すためのものではなく、SNSで交流するためのものとなったように、もしかしたら、建築は人や自然と交流するためのものかもしれない。そして、そこで生まれるコミュニティはスローで幸せに満ちたものだったら、どんなに素晴らしいことだろう。

 

 
  公園からウフを見る
 
  ウフ内観
   
 
  ウフ内観
   
 
  ウフから野川公園を見る
   
 
  ツボミハウスのマルシェ
   
   
   
   
 
[プロフィール]    
坂野 由典   1995年 修了 村松研究室

   

1996年 コロンビア大学大学院修了
1997年 隈研吾建築都市設計事務所
2001年 FLAT HOUSE設立
2012年 法政大学デザイン工学部兼任講師


受賞
2013年 東京建築士会 住宅セレクション入賞
2014年 東京建築賞 優秀賞

 

http://www.flathouse.net/