no.073

映画と建築と私

   

1997年修了 陣内研究室 岡本極


 

幼少の時より父に映画によく連れて行ってもらい、高校生の頃は映画を自ら作るようになっていた。将来は映画に関わる仕事に就きたいという夢を持ち、大学進学も映画映像を作る学科に進みたいという希望もあった。しかし付属校に通っていたこともあり、ご存知の通り我が校法政大学には映画に携わる学科は存在しない。そこで悩んでいた私に対して父の「映画と建築は似ている」という言葉もあり、何となく建築の道に進むことになる。

最初はピンとこなかった父の言葉も、建築を学ぶにつれて映画と建築の類似性について感じるようになった。映画は場面を造り、その流れ、繋がりでストーリーを造り上げていく。建築は空間を造り、実際にその中で暮らし、過ごす人々の体感によりストーリーが生まれて行く、またはそのように仕向ける。場面=空間であり、ストーリー性があるということは映画も建築もモノ造りの根幹としては同じであることを実感するようになる。実際に故武者先生の講義の中でも建築を映像を通して表現するというものがあった。

最初は映画の道に進みたかった私も、気づけば建築の道に進んでいた。それも大学時代に感じた映画と建築の類似性があったからであろう。その実感は仕事でも役立っていると思う。私にとっては建築に重要なのはストーリー性だと思っている。私は商業空間を生業としているが、非日常的な商業空間において人々を楽しませるのは、非日常的なストーリーだと思う。

そんな私も父親になり、自分の子どもを映画に連れて行くことが多い。いつしか子どもが映画の道に進みたいと言うようになった。さて、今度はどんな言葉をかけてやろうか。

 
  GATTACA:
有名建築家の作品やスタイリッシュな空間が、スリリングなストーリーに花を添えている。自分の造った空間がこのような映画に参加できることがあったら素晴らしいことだと思う。
 
  私が仕事で担当した、 羽生パーキングエリア上り線「鬼平江戸処」:
鬼平の活躍した江戸時代の古き街並みを再現し、パーキングエリアを関所、宿場町に見立てている。古い建築を現代の建築技術で再現するのに大変苦労した。現代的な自動車で移動している過程でタイムスリップしたような感覚を体験できる。鬼平のストーリーが空間だけでなく、食にもリンクしている。
   
   
   
   
   
   
   
 
[プロフィール]    
岡本 極
おかもと むなき
  1997年 修了 陣内研究室

 

1972年8月7日 熊本県生まれ
1997年法政大学大学院工学研究科建設工学(建築)専攻 修了
株式会社乃村工藝社 勤務
照明学会認定照明コンサルタント
一級建築士
商業建築、商環境を中心に設計業務を行う。