no.077

羽化登仙器V ―カレイドスコープ仙人の話

   

加賀谷幸規(1977年卒業 大江宏ゼミ) 


    前回は、サイバー空間へ通じる装置を作っていた中央公園在住の仙人(修行中)の話だったが、今回も話は続く。

 台風のエネルギーを使い仙人になるための装置、羽化登仙器Tは確かにうまくいったらしい。水戸芸術館の塔にそっくりの形をしたもので、螺旋渦の中を台風の上昇気流を利用し天空に遊ぶ装置だった。ところがその後、何せダンボールでできていたので雨に溶けるように崩れてしまったらしい。その時はずいぶんしょげていて、わしの力も落ちたものじゃとカップラーメンの残り汁をすすりながら話してくれた。かつては地面の回転が生むコリオリ力をも利用でき、行けない物理空間はなかったと下の雑草をプチプチむしりながらつぶやいていた。

 次に訪ねた時は、ダンボールの箱を作っている最中だった。超高層のガラスカーテンウォールを模したような、または古いコンピューターの基盤を連想させるような、ダンボールを細かくスライスしボンドでくっ付けたふたが付いていた。中にはごちゃごちゃした配線がつまっていて、ようやく人が潜り込める分だけのすきまが作られていた。仙人が言うには目の前にそびえる都庁の通信設備を通じ、知事室にあるコンピューターに入り込む装置とのこと、どうやって?と思ってみたがまあこの人は修行中とは言え仙人なのだからなんでもありかと思いつつ、自分を電子の風に変えるところなんかは酒を愛し深山幽谷をさまよっていた昔の仙人には想像もできないことなんだろうなと思った。その装置は羽化登仙器Uと言った。

 また最近訪ねたところ、どこで手に入れたのか真新しいダンボールで筒状のものを作っていた。ただの三角形の筒だった。ちょっと気になったが 「相変わらず都庁の知事室のコンピューターを通ってあちこち飛んでますか?」とあいさつがわりに尋ねた。
「どうも最近は調子が悪くてな、なかなか入り込めんのじゃよ、いくつか扉があってな、以前は簡単に開けられていたところがむずかしくなっている。数も増えたようじゃ。なんか変わったことでもあったのか?」と聞くから、
「ああそれは知事が変わったせいかもしれませんね」と答えた。
「ん?どんなやつじゃ」と言うので、
「日本で初めての女性の知事でかなりしっかりした人らしいですよ、前の人とちがって」と伝えた。
「おおそうか、まあいい、例の箱を改良してまた入り込んでみるわ。ところでな、これじゃがな」と、さっきから気になっていた筒状のダンボールをポンとたたきひげをなでた。
「ピラミッドパワーって知っているだろう、今回はその力を利用してみようと思ったのじゃ、立体三角形空間が作る磁場の中に頭半分突っ込んでな、ちょっと気合を入れ天空を見る、するとじゃなあ、その天空が水辺に垂らした一滴の墨のようにパァっと広がるのじゃ、その力を利用すればまた気を空に遊ばせることができる。どうじゃ、やってみるか」
はあ、いつものやつか、と思いつつその筒の下にすわり頭を入れ上を見上げた。ん?ただのでかい万華鏡じゃあないかと思い、椅子から立ち上がったら、例によって手を出している仙人がいた。

「はい、千円」
 
  法匠展での展示風景
 
  加賀谷氏と羽化登仙器V
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
 
[プロフィール]    
加賀谷幸規   1977年卒業 大江宏ゼミ

    1954年、秋田市土崎港生まれ
1973年、秋田高校卒
1977年、法政大学工学部建築学科卒業
1977〜1983年、大江宏建築事務所
1983年、高山建築学校
1983〜1999年、六角鬼丈計画工房
1999年〜AUN(エーユーエヌ)建築事務所(代表)
http://aunkagaya.sakura.ne.jp/