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建築の聖地香川の端緒は、丹下健三の代表作「香川県庁舎」である。しかし、香川の文化に最も深く関わりを持った建築家は、大江宏である。
大江宏の香川での代表作は「香川県文化会館」「香川県立丸亀武道館」。前者は、芸能の発表の場、鑑賞の場であり、美術館の部分は、多様な美術の展示に対応しながらも、玉楮象谷に代表される香川伝統の漆芸作品の展示の場として想定された。後者は、柔剣道と弓道の場。このふたつの建築は共に、香川に珠玉の建築群を生み出した金子正則元知事が、戦後復興の中で、西洋美術のための美術館ばかりつくられることに対して、日本の伝統的な芸術を育む場として整備したものである。戦後の新たな日本の在るべき姿を模索した金子正則の、引き継ぐべき日本的なるものを深く探求するその眼差しは、大江宏のそれと互いに激しく共鳴しあったのである。
大江宏は、香川の高校建築に深く関わっている。「香川県立丸亀高校」を筆頭に、「香川県立石田高校」、「香川県立三豊工業高校」と実質的には3作品。しかし、金子正則元知事は、香川県の技官であった我が師建築家山本忠司を陣頭に立て、大江宏と共に高校建築の在り方を模索し、そのプロトタイプとしての3作品を生み、以降は山本忠司が意志を受け取り多くの高校建築を生み出したのである。
建築型における高校建築は、空白である。あらゆる建築家の代表作に高校建築は存在しない。しかし、多感な青年時代の学び舎の情景は、利用者の記憶に深く入り込み、青年期の人格形成に不可避に深く関わる。金子正則・大江宏・山本忠司は、このことに自覚的であった。大江宏の生み出した香川の高校建築は、構造と構成が直截に表現された、オーセンティックで端正な佇まいを持ち、静的で落ち着いた風格と威厳を持つ。
「culture(文化)」の語源は「cultivate(耕す)」。大江宏の「耕していく場合に、どうしてもなくてはならないのは作法だと思います。(中略)建築というのは、崩しにくい作法を、じつは一つの基調、基盤として持っているもののひとつじゃないかと思います。」のこの言を、まさに香川の建築において体現している。
大江宏の香川での建築は、それらはいずれも「挑む場」であり、覚悟を醸成する場である。大江宏の建築は香川県民の深く心理に潜み、深層心理を生み、原風景として存在している。丹下健三の父系的な建築の在り方に対し、大江宏の建築はまさに母系的で包括的で豊かな存在なのである。
ぼくが建築家として多くの作家の作品に関わる瀬戸内国際芸術祭は、大変高い評価を得ているが、香川には、まず金子正則が生み出した、数多の名建築やイサム・ノグチ、ジョージ・ナカシマ等の豊かな芸術的基盤がある。そして、香川県民の個々の内に、自覚的であれ、無自覚的であれ、大江宏によって耕され堆積した豊かな文化の土壌があり、様々の種に豊かな実や花をもたらしているのである。
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香川県文化会館 |
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丸亀高校体育館 |
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香川県立丸亀武道館 |
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