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真冬のトルコ
   

宍戸 克実(2002年修了 陣内ゼミ) 


 2016-2017年の年末年始は真冬のトルコ調査に行ってきました。トルコを含め地中海地域の夏は天候に恵まれ,緑豊かで開放的な都市景観となるため写真映えも良い。地中海地域の都市調査をするなら夏に限る。それは誰もが思うことだと思います。しかし,この度あえて真冬のトルコを訪れようと思ったのはそれなりの理由がありました。

 とある一般市民向けの公民館講座の講師を務め,過去のトルコ調査で撮影した写真を用いトルコ文化の解説をしている際に「トルコに四季はないのですか?」と高齢の聴講者から質問されたことがありました。確かに,これまでにトルコ調査で撮り貯めた写真の大半は夏のもので,冷たい雨が降り続く冬の写真は初期のデジカメで撮った解像度の低いものしかありませんでした。

 魅力的な景観の夏の写真ばかり選択していたことで,文化理解の視点が夏に偏っていたかもしれません。また,このまま特定季節の渡航を続けていくと,都市や建築を見る視点も偏ってしまうのではないかと思うようになりました。

 陣内ゼミで修士だった1999-2002年のうち1年半ほどを留学先のイスタンブルで過ごし,憂鬱な天候が続くトルコの冬はよく知っています。当時留学のため渡航したのが5月で,好天が続くトルコの夏が始まる季節でした。通常であればトルコの新学期は10月からなので,天候が落ち込んでゆく季節からの留学スタートではなくて良かったと思ったものでした。

 さて,今回の真冬のトルコ渡航は情勢不安のイスタンブル滞在は避け,内陸部の小都市サフランボルに直行することにしました。サフランボルはオスマン帝国時代の伝統的住居と都市構造を現在に伝える世界遺産都市で,黒海沿岸から内陸50qの山間部に位置します。

 高地ということもあり寒さへの備えは万全でしたが,到着翌日からは想定していなかった大雪に見舞われてしまいました。吹雪も重なり見通しも効かないため雪化粧の街並みも撮ることができません。屋外での活動が困難なため,主に住居を訪問しての調査を行うことにしましたが,室内ではメガネとカメラのレンズが曇ってしまいます。

 そんな哀れな日本人を見て,住人から「なんで冬に来たんだ」と言われる始末。帰国のためなんとかイスタンブルに戻るものの今度は猛吹雪となり,航空会社から「フライトをキャンセルしたので返金します」とそっけないメールが届きました。滞在を避けていたイスタンブルで二日間も空き時間ができてしまいました。

 この大雪ではもはや情勢不安は関係なかろう,ということで雪に埋もれて静かになった街に繰り出すことにしました。欠航で足止めされ時間を持て余した外国人観光客が吹雪の中をさまよい,若干不気味な造形の雪だるまが街のあちこちに立っていました。

 覚悟していた真冬のトルコ調査でしたが,これほどとは思っていませんでした。トルコも地中海も都市調査をするならやっぱり夏ですね。もしまた季節の偏りが気になったら,春や秋に行こうと思います。

 

 
緑豊かな渓谷に広がる夏のサフランボル
   
 
  雪のサフランボル
   
イスタンブル新市街ベイオール地区の雪だるま
   
  イスタンブル旧市街ローマ時代の水道橋と雪だるま
   
   
   
 
[プロフィール]    
ししど かつみ    
宍戸 克実 2002年修了 陣内ゼミ

   
1975年生まれ。広島県出身。
専門領域 中東のカフェ文化

2002年 (株)ドトールコーヒー設計管理事業部
2006年 (株)エルム都市計画設計室
2008年 愛知産業大学造形学部建築学科(非常勤助手)
2009年 鹿児島県立短期大学生活科学専攻建築デザイン系(助教)
2016年 同准教授(現職)