no.110

無自覚に建築する社会
2019年8月  

郡 謙介(2011年修了 渡辺真理ゼミ) 


 大学院卒業後、私は建築業界ではなくコンサルティング業界に飛び込み、主に官公庁や公益団体をお客様としてコンサルティングを行ってきた。

  業務としては、官公庁が保有している施設やインフラ等の維持管理データのオープンデータ化の実証実験や、インフラ維持管理方法の海外輸出支援、公益団体の業務改善等に関わってきた。

 中でも思い出深い業務の一つが、某官庁のテレワークの推進調査研究業務である。

 テレワークは東日本大震災時に、出社しなくても自宅で働けるという利点から企業等の事業継続の手段として注目された。最近では主婦や介護離職者等が自宅でも働けるよう、労働力人口の確保の観点から注目されている。

 昨年2016年には官公庁や銀行、メーカー等でテレワークが導入されたという報道が多々あったことからも、注目の高さが伺える。

 東日本大震災以前は、テレワークを導入している多くの企業で実施されていたのはモバイルワークのみで、在宅勤務を導入している企業は一部に限られていた。その時期、官公庁で在宅勤務を普及させるために行われていた議論では、労務管理の難しさや在宅で業務を行うためのネットワークの情報セキュリティといったICTに関する課題が中心であった。

 しかし、実際に在宅勤務制度を運用している企業に対してヒアリングを行ったところ、在宅できちんと業務に従事するため、情報管理の問題だけでなく、そもそも、在宅勤務者の自宅内に集中して業務を行えるワークスペースがあるかどうかが企業側から問われるケースが少なくなかった。

 テレワークという制度と建築とは、一見結びつきにくい。しかし、テレワーク推進のための議論では、建築空間の在り方も問われことがしばしばあるのである。

 現代の住宅は技術革新や労働形態の変化等、かつてより様々な要因によって規定されている。住宅は、各人の生活スタイルの中に合わせて最大限の快適性を提供するため、純粋な空間による機能・効果だけでなく、急速な技術革新によって生まれた先端のICT技術も取り込み、科学的な快適性・利便性を求める傾向にあるように感じる。

 社会情勢や技術革新によって、生活のあり方・働き方が変化すれば、器としての建築・都市の“カタチ”を変える必要がある。しかし、直接的に建築空間や設計制度等に関わりがないようなICTの利活用の政策・施策・実証実験等の検証の場には、建築関係者が参加することはあまりないように思う。

 建築関係者は、直接的に都市や建築に関わるものだけでなく、働き方やICTに関する施策の議論する場等、人々の生活に関わる施策や実証実験の場に、「空間のプロフェッショナル」として、建築関係者がもっと関わってもよいのではないかと感じる。

 一見、建築とは関係ないところで、建築の空間を左右する要件が決められている。現在社会においては、建築関係者の知らないところで、社会が無自覚に建築を行っているように感じる。

 

(記事は2017年5月時点に執筆されたものです)

 

 
  テレワークの分類
   
  在宅テレワーカー人口の推移
 

 

 
  職住近接が進む都心
   
   
   
   
   
   
   
 
[プロフィール]    
こおり けんすけ    
郡 謙介 2011年修了 渡辺真理ゼミ

   
1986年 愛知県生まれ。
2011年 大学院修士課程修了 渡辺真理ゼミ
2011〜2014年 株式会社富士通総研
2014〜2016年 株式会社東急総合研究所
2016年 アビームコンサルティング株式会社