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私は、20代の半分にあたる、4年半をタイのバンコクで過ごした。バンコクの都市の歴史に関する修士論文と博士論文を書き上げるために、タイの大学に留学していたのだ。 私にとってタイ語は難しく、現地での人的ネットワークの構築も容易ではなかった。そのため、研究テーマはなかなか決まらず、現地での実測調査やインタビューを行うフィールドワークと公文書館での史料蒐集に時間がかかってしまった。ただし、この順風満帆ではなかった長い留学期間を通して、私は高いフィールドワーク力と発想力を身に付けたと自負している。 縁あって、広島県の呉市にある呉工業高等専門学校の建築学科で2012年の10月より、教鞭をとることになった。 工業高等専門学校、通称、高専とは、高等学校と大学が融合したような高等教育機関である。5年制の本科と希望する学生がさらに学ぶ2年制の専攻科からなる。 本科では15歳から20歳までの学生が建築を学ぶ。呉高専では、5年生からゼミに配属され、卒業研究を行う。さらに、大学の3年から4年にあたる専攻科では卒業研究と学会での研究発表も行う。 大学に比べると、知名度の低い高専の建築学科であるが、学生たちの製図能力や構造力学などの建築に関する理解度は、15歳から専門教育を受けているので驚くほど高い。 本科を卒業して、すぐに2級建築士に合格する学生も少なくない。しかし、机上の知識はあるものの、彼・彼女らが実際の建築や空間に触れる機会は少ないと私は感じている。 そこで、私の研究室では、卒業研究においてフィールドワークを行うことを重視している。可能な限り街に出て、そこにあるモノや人、空間を感じ取り、研究を進めるように指導している。また、現在も継続して行っているタイでのフィールドワークにも、研究室の学生を連れて行くようにしている。 私はなぜ研究室の活動において、フィールドワークを重視しているのだろう。答えは簡単で、私が学んだ陣内ゼミでそのように指導され、それをタイの留学中も実践してきたからだ。 まず、碩学である先生や経験豊富な先輩方と一緒に行うフィールドワークを通して、新たな知識や経験と出会い、そして自らの勉強不足を自覚する。こうして、私も自ら積極的に学ぶようになっていった。 ただし、東京や中国で学んだフィールドワークの手法を、タイ留学中に一人で実践しようとすると上手くいかなかった。インフォーマントや文献から得た新たな知識や経験をもとに建築や文化の違いに応じて、フィールドワークのやり方を修正する必要があったのだ。 こうして私は留学中にフィールドワークを通して、都市や建築についてより深く考察するようになった。 陣内ゼミから学び、引き継いだ研究やフィールドワークの手法は、呉高専でも少しずつ根付きつつある。時代や場所に合うように改良を加えながら、フィールドワークを通した学びの手法を、呉高専の学生たちに伝えていきたい。
(記事は2017年5月時点に執筆されたものです)
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