建築学科で学んだ事は、課題を自分で設定し、答えを導き出す事、工学的なアプローチが大事、大江研で学んだ事は自由な思考、大学のボクシング部で学んだ事はストイックと感覚。
今は、建築の知識を活かし、テーブルや椅子などの脚物家具を得意とする家具工房を営んでいます。
いつも心に留めているのは、最高を求めるのではなく、最良、最善を尽くすこと。 目指しているのは、世界一小さな、世界最良品質の家具ブランド。
有名なYチェア。座り心地は意見が分かれますが、その美しさは削り出し、曲げ木、成形合板、木組み、編みといった複合的な技術によって成り立ち、NCでの製作が普及するまで真似され難かった。ウィンザーチェアやシェーカーチェアは、その原初的な製作方法が、現代の加工技術の進歩により、逆に独特の雰囲気を醸し出す。
アンティークやビンテージ家具を修理するたびに、製作技術とデザインの不可分な関係性と接着性能や機械加工精度の低い古典的な構造の持つ合理性を感じます。
写真@はデザイナーと共同で開発した照明の笠の一部で、二つのパーツの接合状況。
品質や強度、精度の求められる加工方法を考えると、斜めに指すこの形状が最善と判断。最高の接合方法は両端を貫通しない形状だが、機械の加工方法では難しく、手加工では量産できない。
写真Aは、製作したスツールのJIS規格の破壊強度試験の様子。60kgの重りを載せ、鉄板の上で、3cm上げ、3000回下ろす、響く衝撃音。椅子の場合は最も厳しい試験で5cm上げ、8000回行う。独自の木組み形状を用い、自主的に依頼している試験は無事通過。
この試験では試験体の半分くらい壊れるが、現在ISO規格の試験で殆ど通過する。
多くの椅子で用いられるダボ接合やビスを用いる隅木は、効率的だが強度は最善ではなく、修理も難しい。
写真B・Cはテーブルの天板と幕板の接合に用いる送り寄せ蟻組の様子。
梅雨時期と乾燥した冬で、幅方向に0.5%伸縮する木材に適した接合方法だが、最高の形状は脚の上部にも蟻組を設けること。しかし、精度の整合、コストの面で写真の形状が最善と判断。凝った加工を表に見せないのは、見せると欠け易く、品質が落ちるため。
このような物作りの延長上に、中央に脚を寄せた円卓やショートアームチェアなど世界最良品質でオンリーワンの商品を生み出しています。
物作りで何より大事なのは、環境に配慮する事、製作者の安全性、事業の健全な継続性。それが確立され、商品の品質、生産性、顧客の満足度、社会への貢献を考える。
製作に絞って考えると、素材の知識と加工方法、道具、機械、刃物の理解と応用、そしてコスト。
商品では、機能性、市場での需要と独自性、ブランドの中での位置付け。
複合的に絡み合う難しい課題を、深く考え、解決策を出し、また課題が見つかる無限のループ、一歩ずつ進むその過程が楽しくてしょうがない。
今までの人生で、「Mだよね」と聞かれて、「MでSだよ」と何度答えたか。 真っ白な灰になるまで、自分を燃やし尽くす。
品質を求める無垢の木製家具の難問、お待ちしております。
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