大学にいた頃は、機会や仲間に恵まれたこともあり、子どもを対象とした都市や建築のWSの実践、墨田・江東エリアや中央線エリアの研究、大江宏の生誕100年プロジェクトなど、様々な経験をさせてもらった。その中で一貫して思っていたことは、どうやったら都市や建築の歴史の面白さを人に伝えることができるのか。そんな時に、江東区中川船番所資料館に出会った。
都営新宿線東大島駅を最寄りとして、旧中川と小名木川が合流する場所に、資料館はある。この場所はもともと、江戸時代、川の関所にあたる中川番所があったところだ。番所を再現したジオラマなどがあり、ここは江東区の水の都市の歴史と文化を伝える博物館である。
こういった施設で働いている専門の職員は、歴史学や考古学を専門とする人が多いため、陣内研という経歴はずいぶん珍しがられた。そんな彼らに交じりながら、できることを探し始めた。
資料館には、社会科見学の一環で小学生が団体で鑑賞に来る。これまでは展示の解説をしていたが、子どもたちの歴史への興味を引き出すにはどうすればいいか。そこで、陣内研のように、各時代の地図を使い、地域の歴史的変遷を説明してみる。水の都市としての江東区の歴史が一目で分かるよう、各時代の地図をつくり、見学に来る小学校の位置も毎回地図上に落として、配布した。学校の周りがどうだったか、そんな些細なきっかけで、急に歴史が暮らしと結びついた。
江東区の富士塚をテーマとした企画展では、展示品を収録した図録ではなく、展示を観終わった後に、実際に富士塚を巡ってもらいたいという想いでガイドブックをつくらせてもらった。江東区だけではなく、東京23区の富士塚も紹介した。展覧会で知識を深めることも大事だが、歴史は資料館の中だけにあるわけではない。目の前の世界にちゃんと在る、だから歴史は面白いんだと。
そんな資料館の前に、2013年3月、東京23区初となる川の駅の「旧中川・川の駅」が誕生した。水陸両用バスのスロープやカヌー乗り場、売店など、地域ににぎわいを生み出す拠点として整備された。地元の商店街も川の駅を中心に地域を盛り上げていこうと様々な活動が生まれた。
この時から、資料館が在る意味も変わっていった。観光と結びつけながら、地域の歴史をひろく発信すると同時に、地元の活動を博物館としてできるかたちで支援していく。
川の駅ができた時、なんとなく新たな空間が生まれることで、地域は変わるんだということを実感した。大学で学んだ建築の可能性のようなものに触れた気がした。
東京23区にはどの区にも個性的な博物館が存在する。また、練馬区のように美術館がある区も多い。人々の身近な場所で、歴史や文化の面白さを最前線で伝えている。現場は、面白い。
2020年新型コロナウイルスの影響により博物館や美術館は、大きな転換期を迎えている。新しい日常の中では、これまで以上にグローバルにつながりながら、ローカルな立ち振る舞いが必要になるのではと思う。歴史や文化をリアルに伝える場所として、現場はまだまだ面白くなるはずである。
|