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独立して間もない頃、よく散歩をした。自宅の半分を仕事場として改装し、設計事務所のかたちを整えてみたが、たいした仕事もなく時間だけはたくさんあった。 事務所のある「初台」は新宿区と渋谷区の狭間に位置する。少し先には中野区も登場し、それぞれの区の片鱗が鬩ぎ合う不思議な場所だ。事務所を起点に北へ進むと「西新宿五丁目駅」と「清水橋」交差点がある。そこから山手通りと方南通りの賑わいを越え脇道へ入ると景色は一変し、低層住宅エリアが広がる。古びた家の間から真新しいタワーマンションが顔を覗かせるのを横目に、くねくねと蛇行したみち進む。すると「橋の欄干らしきもの」が次々と出現するではないか。これは暗渠である。かつて架かっていた橋はそのままに埋め立てたのだろうか。今は川のない場所に、唐突に橋の名前が刻まれている点が面白い。よく見ると、豆腐屋や銭湯など水にまつわる建物が点在し、かつて水が近かったことが伺える。しばらく進むと、目の前に水の流れが現れた。「神田川」である。あとで調べたところ、件の暗渠は笹塚から神田川へと繋がる「神田川笹塚支流」というらしい。遊歩道に点在する動物遊具が昭和っぽいアクセントとなり、大人たち(特に暗渠マニア)のノスタルジーを掻立てるのだが。このリニアなオープンスペースでどのように遊ぼうか、こどもたちも楽しいだろう。私の楽しみは、航空写真から独特な細長いカーブが浮かび上がるのを見つけ、川まで辿ってみることだ。インターネットでおおよその見当をつけるが、情報が途切れていることもあり、実際に散歩に行く楽しみを忘れてはならない。 2021年2月。東京は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の真只中だ。私は設計の仕事に追われており、有難いことに自由な時間は減ってしまったが、折をみて散歩に出掛けたいと思う。初台から西へ進むと渋谷区。代々木上原から渋谷へ、渋谷川水系に連なる暗渠がつづく。
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