no.141

コロナ禍でのコンサート
2022年3月  

和田 竜一(2012年修了 後藤ゼミ) 


 小学生の頃に「ミュージックステーション」で見たXJAPANに衝撃を受けてから、ロック音楽にはまり、思春期を過ごした。大学進学を意識し始めた高校生の頃、漠然と「音楽に携わる仕事がしたい!」と思い、音楽や音響の授業がある学科を調べた。

 意外にも建築学科で音響の授業があることに気づき、法政大学に入学、後藤ゼミを2012年に修了し、永田音響設計に就職した。私にとって音楽とは趣味であり、仕事に必要な経験でもある。そのため、よくコンサート(最近は主にクラシック)に出かける。

 しかしながらコロナ騒動の影響は当然、音楽業界にも大きな影響を与えている。本稿では、昨今の演奏会の様子とともにすこしだけ私感について書かせていただきたい。

 2020年4月に発令された緊急事態宣言により、各演奏家・団体は予定されていたコンサートの中止を決定した。音楽家にとっても、これほどの大規模な演奏会の中止は、戦後よりないであろう。大打撃を受けたことは想像に難くない。

 感染者数が落ち着き、宣言が解除されたころから徐々に、各種制限や対策を設けてのコンサートが開催されるようになってきた。私も、2020年9月にやっと久しぶりのコンサートに出かけることができた。

 読売日本交響楽団のサントリーホールにおける定期公演である。いつもであればチケットのもぎりをしてくれるレセプショニストは、不織布のマスクの上にアクリルのフェイスカバーをつけており、感染防止対策のためチケットのもぎりは観客各自でおこなうことになっていた。

 チケットを「お願いします」と渡し、「ごゆっくりお楽しみください」と声をかけていただく。簡単なコミュニケーションだが、コンサート前の期待感を高めてくれる要素であった。しかし、この時はそういったことがしにくい雰囲気であった。レセプショニストの方々も、感染の危険性があるなかでの業務に不安を覚えていたことだろう。

 定期会員の私の席は、ポディウム席と呼ばれ、舞台の背後にある席である。アリーナ型ホールならではの臨場感を感じられる席である。オーケストラの並びが微妙に違うことでアンサンブルの聞こえ方が変わるところも、個人的には一つの魅力に感じている。

 ところがこの時は、各演奏者の間に飛沫感染防止のためのアクリル板がおかれ、管楽器奏者以外はもれなくマスクをつけての演奏であった。いつもと比べると、アクリルに音が邪魔され、なんとなく届きにくい印象だったことを覚えている。

 また、客席はソーシャルディスタンス確保の観点から、前後左右に隣り合う席ができぬよう、一席おきにチケットを売るという措置がとられていた。

 この演奏会から少しして、また緊急事態宣言が発出された。あれよあれよという間に、重症化率の高い変異株が発生し、またしても演奏会の中止が余儀なくされ、しばらくコンサートはお預けとなった。

 先日、上記の演奏会からほぼ1年半ぶりにコンサートに出かけた。前記の演奏会とは違うオーケストラだが、アクリルや座席の間引きは見られず、少しずつではあろうが観客が戻ってきている様子がうかがえた。

 感染防止対策として、アルコールスプレーがエントランスに置かれ、チケットもぎりは個人で行うということを継続しつつ、退場時の「密」をなるべく避けるよう、客席ブロックごとの退場を呼びかける等の試みが追加されていた。

 感染拡大防止のために、不要不急の外出を避ける。これ自体に異論はないし、何より命や健康は大事である。「エンターテインメントは金と社会的な余裕があって初めて成立する」との意見もメディアで聞いた。ただ、行き過ぎた感染対策は文化を衰退させるのではないかと、個人的には危惧している。

 皆さんコンサートに出かけましょう!と積極的なキャンペーンをするつもりはないが、「自粛」や「規制」とは別の戦い方で、この未曽有の禍に立ち向かおうとしている団体もあるということを多くの方に知ってもらいたい。


ポディウム席
 
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[プロフィール]    
わだ・りょういち    
和田 竜一 2012年修了 後藤剛史ゼミ

   
2010年 法政大学工学部建築学科卒業
2012年 法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻(後藤剛史ゼミ)
2012年より、株式会社 永田音響設計