大学院卒業時に訪れたフィンランドとスウェーデンの空気、におい、手触りが今でも記憶に残っています。
その中でも建物がさらっと人々を受け入れ、例えばフィンランドの図書館では、本棚の上でコーヒーを飲みながら話しに夢中になっている2人組、椅子を持ち寄って輪になり縫い物をしているお母さんたちなど、まちの中のふらっと立ち寄ることができ、思い思いに活動できる場所は公共建築のあるべき姿だと感じました。
法政大学大学院を卒業後、伊東豊雄建築設計事務所に入り3年が経ち、今は大阪府茨木市での劇場・図書館・子育て支援・スタジオ・市民活動センターが入った複合施設のプロジェクトを担当し、茨木に住んでいます。現場がどんどん進んでいき、日々鍛えられています。
伊東事務所に入社し1年経ったときに、「公共建築はみんなの家である」という展覧会を担当しました。
この展覧会は開館から何年か経った今、公共建築がどのように使われているのかを使い手にインタビューしまとめたもので、これからの伊東事務所が公共建築をつくるときの手がかりになるのではないかというところから始まりました。
インタビューでは、館のスタッフと仲良しで第3の家であり暇があればここに来るという大学生の話や、幼稚園の散歩の通り道になっていて原っぱのように劇場のホワイエを使っている話を聞き、建築が器になり使い手がお気に入りの場所を見つけ、自分のもののようになっているということを話してくれたことが大切なことだと感じました。
この展覧会を担当できたことはわたしにとって大きな経験です。
そしてこの展覧会を経て、茨木市での公共建築を担当し、現場が始まり5か月ほどたちます。
今は工事としては躯体を建てているところですが、同じ展覧会を担当していた先輩とふたりで現場にいることもあり、ソフトとハードのどちらからも建築を行き来することをとても大切にしています。
茨木市の公共施設は館名を愛称で呼びます。この建築も市民募集・市民投票により、「おにクル」に決まりました。茨木市民の6歳の子が命名し、“怖い鬼ですら楽しそうで来たくなってしまうところ”という思いが込められています。
市役所の横に位置する現場から感じることは、市役所横の広場イバラボにキッチンカーが来て音楽に乗りながら楽しむ人、交差点の袋小路では毎日のように踊りの練習をする中学生の子、市役所の1階エントランスではオープンなワークショップ、市や市民の人々が使いこなすパワーを持っています。こんなにも市民が参加することに驚いています。
そんなまちの中心に建つ建築の名前として「おにクル」は、使いこなしてやろうと思えるような建築の名前としてぴったりだと思います。
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