no.158

ある障害者の一日
2023年8月  

 鈴木 茂雄(1993年 陣内ゼミ修了) 


【前提】
令和元年七月都内某ゼネコン設計部にて脳溢血発症。
合わせて高次脳機能障害も発症。
救急搬送ののち、リハビリの甲斐あって現在は新潟市内某老人介護施設に居住。
現在車椅子利用。杖で歩く訓練実行中。

それではある障害者の一日を語ってみよう。

 

【起床・朝食】
これはあくまで僕の事例であり、読者の想像力への挑戦でもある。

起床はほぼ六時。昨日も障害者だった。
もちろん今日も障害者。
確認するまでもなく左腕は動かない。

ベッドで固まった左足を右脚でからめて伸びをする。
ラインで友人に「Buongiorno」と挨拶。
速攻で返事が来るのは徹夜か寝不足か早起きかわからない。

手すりに摑まりベッドの端に腰掛ける。
アルミと皮でできた装具を締め付けるように履く。
右脚はツッカケのような滑り止め付きの靴を履く。
ようやく車椅子に移乗。
車椅子のブレーキを掛ける。
手すりを頼りにテコを使って立ち上がる。
ブレーキを確認して車椅子に座る。
畳んであるフットレストを右足で広げる右手で装具を履いた脚を乗せる。
ピボット回転で後ろ向きにベッド脇を離脱。
腕は動かない。
ちょうどギプスで吊っているように揺れている。
これでようやく移乗完了。

トイレに向かう。
ミニキッチンの脇を通るまではバック走行。
ミニキッチンに置かれた水筒をピックアップ。
広いところに出て前向きに切り返し。
開け放たれたままの扉を抜けて壁に向かい、手前で急制動。装具の先が触れたあたりでブレーキを掛ける。
この時バーからの距離が初めてのトイレだったり酔っていたりすると計るのが難しい。
装具を履いた左脚を右手で床に下ろす。
右脚でフットレストを畳む。
フットレストから滑り落とすように装具を履いた右足を下ろす。
装具底面が床にちゃんと設置しているか確認。
ブレーキの入り切りで縦バーとの距離を微調整。
右腕でバーに摑まりようやく立ち上がる。
重心は装具を履いた左足。
左足に重心が移ると筋張で足首がタップダンスのように小刻みに揺れ続ける。
右足を思い切り便器の前まで踏み込む。
バーに身体を預け半ズボンとリハビリパンツ(紙オムツ)を下げて便座に移乗。
右腕だけでズボンの上げ下げをするために新潟の冬でも僕は半ズボン。
用を足して今度は逆工程で車椅子に移乗。
半身麻痺ということは便器に座って用を足しても半腰でお尻が拭けないということを意味する。(前から拭こうとすると男性は邪魔なものがある)
片手しか使えないと、トイレットペーパーも押さえをあげて勢いで引っ張り出すので消費量が多いかもしれない。
そこでバーを持って立ち上がりたったままでお尻を拭く工夫を開発した。(前から拭こうとして右肩を痛めたため)

車椅子に移乗してバックで部屋に戻る。
油断するとフットレストと床の間に左足が挟まる。
激痛とともにやりきれない敗北感に襲われる。
排便時に限らず力むと麻痺して動かない左腕が痛みを伴い微妙に動く。
昼食後はベッドで仮眠を取る。
半身不随の人間にとって横になるのは休養とは限らない。
横になると体が固まることがあるからだ。
だから仮眠というより、装具を外して浮腫の解消の意味合いが近い。
横になる時は自主トレのリハビリとして腹筋等は欠かせない。
装具を外した後に締め付けられた膝下に湿布を塗り込む。

以上は決して文字数稼ぎではない。
障害者(車椅子利用者)の日常行動を事細かに記述するためである。

 

【朝食】
うがいをして階下の食堂を目指す。
ほぼ毎日廊下の窓際に置いている多肉植物に水をやる。
プリン大の鉢を片手で二つ持ち四回ほど往復してミニキッチンでスプレー散布。
一生懸命車椅子を漕ぐとアルミの装具と車椅子が触れて不愉快な音を立て続ける。

食堂の介護施設八景はテーマが違うので割愛。

まず食前のリハビリ。
ワイピングを一百回1セット。(この施設入居後毎日欠かさないので現在通算約一万五千回)
配膳前は読書タイム。
図書館のハンディキャップサービスで無料発送してくれる。

片手で納豆のフィルムを剥がすのは自分でも上達したと思う。
片手で納豆をかき混ぜるが押さえる手がないので度々こぼすが気にしない。
スプーンで納豆卵かけご飯を食べる。

朝食後水筒に入れてもらったお湯で紅茶を淹れる。
抽出中に歯磨き(歯を第三の手として使っている関係口腔清掃は入念に。
右腕しか使えないので、コップに水を入れて安定させてからコップに橋渡しをするように歯ブラシを置く。
歯磨き粉を少量付ける。
運が悪い日は「マーフィーの法則」発動。
歯ブラシが回転して歯磨き粉が落ちる。
歯磨き後紅茶を持って机に移動。

 

【デイタイム】
午前中はエッセイとか小説の執筆に当てる。

アニメ好きなので毎日違う番組をアマプラなど連続視聴1クール/2日で消費してしまう。
鑑賞後感想をブログに綴る。
ブログ執筆は高次脳機能障害のリハビリでカウンセラーに薦められた。

毎日アニメ観て本読んで一日が暮れるとこんなことしていたら社会復帰は遠く感じる。
夕食後に必ず映画視聴。
これも観賞後にブログで感想作成。

二十二時くらいには就寝。

 

ご想像いただけだろうか?
これが僕の一日のサイクル。
ほぼ毎日同じ日々が過ぎて行く。

違う点は週に二回の入浴。
月に二回の訪問リハビリ。
月に一度のハローワーク通い。

YouTubeで「#ikuzuss」と検索いただければ歩行訓練がご覧いただけます。

https://www.youtube.com/@shigeo2suzuki575

■このエッセイは三部作を予定しています。
以下予告タイトル(仮題)
「渡る世間はバリアフル」
「誰かのバリアフリーは誰かのバリア〜ユニバーサルデザインについて」
「老人介護施設について(居住者からの提言)」(執筆未定)

 


 

四点杖と野又穫
作業療法@初台
 
歩行訓練@新潟
 
車椅子移乗@自室
ワイピング@新潟
 
階段昇降リハビリ@初台
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
[プロフィール]    
     
鈴木 茂雄 1993年修了 陣内ゼミ

   
1966年新潟県長岡市生
1989年モロッコ調査参加
1989年中国水濠鎮調査参加
1991年シリア・ダマスクス調査参加
1993年法政大学大学院工学研究科建設工学専攻修士課程修了修士
1993-2000空間研究所所属
2000年〜スタジオシンク主宰
論文テーマ「シリア・ダマスクス」
1990年法政大学卒業陣内研究室所属卒業論文「廃墟論」

ブログ「多肉植物のように〜高次脳機能障害を患った建築士の日記」更新中
https://ikuzuss.hatenablog.com/?fbclid=IwAR0UD53FJ5gPv6l-lcPzN3Jb9T_JrS8lcN-VZ3HJo9pq34F46MLzMrArvvY