no.167

書を捨てよ、町へ出よう
2024年5月  

三浦 寛滋(2011年 渡辺ゼミ修了) 


 2020年3月コロナが出始めてすぐ本格的にリモートワークが始まり、職住近接の必要がなくなったことをこれ幸いと、その年の年末に練馬の実家から逗子へと移り住んだ。
きっかけは社会情勢と相まって膠着していく日常に対しての危機感であったように思う。
長年ロードバイクで済んでいた行動圏内から大きく環境を変えること、移動が難しい状況が長引くと予想し旅の目的地となるような自然豊かな環境であることなど、移住を決めた理由はいくつかあったが、先に移住していたナベ研同期の高田君を幾度も訪ねる内に逗子という町の魅力が十分に伝わっていたことが大きい。

元来、環境に依存する性質なのでその変化がもたらす効果の大きさを実感している。
この時始めた同棲が妻と結婚するきっかけとなり、 子供にも恵まれた。
山と海に囲まれ、近所に素敵なお出掛けスポットも多く、今もリモートワークの恩恵も最大限に受けている。
一方で基本的に中心に居座るのは怠惰な自分なので、再び固定化された行動範囲に満足してしまう。おかげで一歳になる娘のみならず、あっという間に「箱入り一家」の出来上がりである。

会社勤めの傍ら、no.153で登場した宮本とマ・アーキテクツで設計活動を行っている。
建築設計は請負であるため、依頼者ひいては世の中との接点を多く持つ必要がある。コロナ禍が明けた今、停滞する現状に危機感を覚え町に出て人に会うことにした。
取急ぎ興味のあった建築のセミナーに出向き普段ならそそくさと帰るところ、名刺と言葉を交わした。 以前からお話したかった方とお話ができ、後日2人で食事をする機会をいただいた。一度目にして運良く成功体験となったのである。

「書を捨てよ、町に出よう」という言葉が今改めてしっくり来ている。
町で自身がどのように振る舞うのか。
興味の示す方向へ出向くこと。そして、興味を抱き来てもらえる場所をつくること。
恥ずかしながら四十を目前に積んだままの課題は多い。

このエッセイを考えている間、中央線の終電で下吹越先生と修了ぶりにお会いした。家でも電車でも、画面と向き合っている間に逃している出会いは少なくない。
最後まで読んだ頂いた皆さんとも町でお会いできることを楽しみにしている。




 

逗子海岸を望む
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
[プロフィール]    
みうら・かんじ    
三浦 寛滋  2011年 渡辺真理研究室修了

   
1986年 東京都生まれ
2011年 法政大学大学院工学研究科建設工学専攻 修了
2014年- ATA企画
2019年 マ・アーキテクツ|MA architects参画
https://www.m-a-rchitects.com/